説くことのさしてなければ黒板に数式を延ばすペンキのごとく棚木恒寿『若き豌豆』
四句目に一文字だけ字余りの歌だが、五句目まで伸び切っているかの様な錯覚に出会う。
その内容と一致しており、長々と黒板に数式が、無駄に描かれてゆく様子が思い浮かぶ。
前後の文脈から、定年退職前の教師の歌だろうと思われる。
若いうちは新鮮に感じていた仕事も、同じことが何年と繰り返されるうちに、緊張感がなくなる。
定年前となれば、このくらいで、のらりくらりとしてもよいだろうとなるのだろう。
そうすると、歌もまた若者にありがちな力みや気負いがなくなり、するすると、きもちよく伝わってくる。
これくらいの軽やかさが、大人の余裕さ、という魅力なのだろう。
今年はいろいろなことがあった。
大学無償化法が通り、消費税は上がり、戦略産業論としての自動車減税が達成された。
今は、もう何も説くことはない。
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